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豊平川のサケが語る出生の謎とは [環境サスペンス]

サケは、生まれた川にどうして帰ってくることができるのでしょうか?。
北海道大学の上田先生にはサケの生態や川に帰るメカニズムについての最新の研究成果をお聞きしました。


 海に下ったサケが生まれた川に産卵のために帰ってくる「母川回帰(ぼせんかいき)」の過程については、まだまだ多くの謎が残されているのですが、上田先生は最先端の研究成果をお話しくださいました。
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 海に下ったサケは北太平洋で成長し、ベーリング海から北海道へともどってきます。
その距離は往復で約三千海里(5500km)にもなる長い道のりです。これまでその道のりについては良くわかってなかったのですが、ベーリング海でサケの背中に、プロペラ流速計をつけて放す実験によって、サケは2ヶ月程度で2700km程の距離をほぼまっすぐ泳いで北海道沿岸に帰ってくることが確認できたのだそうです。このような、サケの回遊ルートを解明したデータはそれまでなく、このたいへん貴重なデータなのです。

 川の近くまで到達したサケは、においによって生まれた川を探し出します。そのにおいというのは、実は十数種類ものアミノ酸の組成によって決まっているということを、上田先生は実験によって確かめられました。川ごとに含まれるアミノ酸の組成は実は異なっていますが、川のアミノ酸組成を人工的に再現した人工河川水ともともとの天然の河川水を使った実験によって、人工河川水も生まれた川の水のにおいだと認識することが確認されたのです。


 サケはにおいで生まれた川を知るということを知っている方は多いかと思います。しかし、においとは川の水に含まれるアミノ酸の組成であるということは、ほとんど知られていない非常に興味深い研究成果情報なのではないでしょうか。


 さてカムバックサーモン運動で豊平川に放流した約100万匹のサケは、実は千歳川で生まれて育った稚魚でした。それではなぜ、千歳川で生まれたサケが豊平川に帰ってきたのでしょうか?千歳川で生まれたサケならば、生まれた川である千歳川に帰ってくるのではないでしょうか?これが今回の環境サスペンスの謎の一つである「豊平川のサケが語る出生の謎」です。


 サケは生まれた川をにおいで知るのならば、そのにおいはいつ記憶するのでしょうか。
上田先生のお話によると、サケは、稚魚が海に下れるようになって(現象を銀化と呼び、銀化したサケはスモルトと呼ばれます)から、海に到達するあいだに川のにおいを憶えるのだそうです。専門用語ではこれを「母川記銘(ぼせんきめい)」と呼びます。鳥のひなが生まれて始めて見る動くものを母親だと記憶する「すりこみ」と呼ばれる現象と同じように、サケの稚魚は一度だけ川のにおいを憶えるのです。その時期が生まれたばかりの稚魚の段階ではなく、ある程度育って降海する直前に憶えるのだそうです。


 だから、千歳川で生まれ育った稚魚でも、まだ母川記銘を行える状態に生育していないため、放流した後に豊平川のにおいを憶えて、生まれ故郷の川は豊平川だと学習するのです。これが、今回の謎の答えでした。


上田先生のお話では、他にも多くのサケ科魚類にまつわる謎が語られました。2008_1002_185326AA.JPG


 例えば、生まれた川にきちんと帰ってくるサケの方が、その種が生存するためにはいいのかという問題があります。うまれた川に帰ってくる(回帰する)方がいいはずだと単純に思ってしまうのですが、実は、別な川に迷ってしまう魚がいることにも意味があるのだそうです。


 サケが回帰してくるまでには数年の月日がかかります。このため、その間に生まれた川の環境が変わってしまうことがあるかもしれません。生まれた川にしか回帰できないと、何らかのアクシデントが川に起きた場合、その川で生まれたサケはみんな絶えてしまう危険があります。サケにとっては、「生まれた川に帰らないこと」も実は重要な意味を持っていたのです。別な川に行ってしまうことは生息できる河川を増やしていくことにもなります。サケ科魚類の種類によって、川への回帰率はことなり、カラフトマスは回帰率が低く、シロザケは高いのだそうです。


今回の環境サスペンスのオチにも、このカラフトマスの生態を利用させていただきました。


上田先生のサケの生態に関する興味深い話題は、環境サスペンスの時間枠だけでは伝えきれないほどのものでした。
今回の話題やご紹介できなかった話題については、上田先生も書かれている「フィールド科学への招待」という本に詳しく書かれています。


次回は、最後の質問に答える形で、有賀さんが投げかけられた、豊平川のサケの将来についての話題をブログで報告します。


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